吸血鬼は淫らな舞台を見る


 宮路は硬質なショルダーバッグを肩からぶら下げていた。


 相手との距離を確かめるためにショルダー・ベルトの位置を直す振りをして立ち止まった。


 チラッと見ると相手も歩みをやめ、素人のエキストラがするような下手くそな演技で顔を横に向ける。


 宮路は急に走り出した。


 慌てたように足音のリズムも早くなる。


 信号は赤だったが、停まっている車も横断歩道を渡ってくる人もいなかった。
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