吸血鬼は淫らな舞台を見る


「どこに向かってるんだ……」

 サトウは携帯を切ると苦虫を噛むような表情をしてハンドルから手を放した。


 倉成の住む商業ビル兼マンションから車は安易に動けず、後部座席で瑠諏と倉成が行き先の定まらない車内の空気感を共有していた。


 瑠諏は窓の外に視線を泳がせ、倉成はドアの取っ手に繋がれた手錠を煩(わずら)わしそうにカチャカチャ動かしている。


「動くな!」

 サトウが叱責すると倉成が顎を引いて息を止め、体を硬直させた。


 海の底のような静かな車内で携帯が鳴ると、サトウは焦るように問いかけた。

 「いまどこだ?」

 前回の電話から15分以上経過していた。
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