ブルーローズの恋人

「待って、妃那っ」

目の前を歩く小さな背中に声を掛けるが、返事は返って来ない。

キャンパス内の大通りを横切り、人通りの少ない講堂裏へと続く並木通りを無言のまま二人は歩き続ける。
その間も、ずっと真那の腕は妃那の小さな手に握られたままだ。

通りすがりに、構内に設置された柱時計が真那の視界を掠める。
午後の講義が始まる迄、後20分程度足らずの時刻を示していた。

「妃那」

なるべく穏やかな声音で呼び掛ける。
すると、早足だった歩調は緩やかになりやがて止まった。

「あんまり講堂から離れると休憩時間短くなるよ。妃那のお昼、途中だったし」

妃那の正面へと回り込み、そっと顔を伺う。
彼女の表情を見て、真那は小さく苦笑を洩らした。

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