あたしのトナリ。
2.
 慧子さんと由香里さんに煽られて苦手なお酒を飲んだことは思い出せる。そこから一体全体何がどうなってこうなってしまったのか……
 昨日のことを思い出すと頭が冴えてきたのか、改めてこの状況を考えるとサッと自分の顔から血の気が引いていくのがわかった。
 相手は婚約したばかりの宮地さん、完全にこのシチュエーションで私と何もなかったなんてことはありえない。それは何よりも謎の腰の痛みが物語っている。
「ど、どうしよう……」
 私実ははじめてだったんです、とは思うけど今はそういうことに焦ってるんじゃない。
 もし、有紗さんがこのことを知ったら。宮地さんの幸せが、壊れてしまう。
 また横で寝返りをうつ気配がした。さっきからもう怖すぎて横を見ることが出来ない。
 ――かくなる上は。
(逃げるしか!)
 あたしはそーっと、宮地さんを起こさないようにベッドから抜け出し床に散らばっていた下着と服を素早く身に着け、やっぱり無造作に放り出されていたバッグを持って逃げるように部屋を出た。玄関でひっくり返っているミュールを探し出してストラップもつけずに外へ出ると雨が降っていた、しかも本降り。もちろん傘は持っていない。
「……ホントついてない」
 宮地さんの最寄駅は知っていたから多分適当に歩けば駅につくはず。走ろうにも腰が痛くて無理。タクシーに乗るお金もない。
 あたしはひとつ溜め息をつくと諦めて、とぼとぼと歩きだした。さっきまでベッドに入って温まっていた身体がどんどん冷たくなっていくのが自分でもわかる。
 今日は休館日でお休みだけど明日からはまた出勤で、しかも宮地さんもいる。どんな顔して会えばいいんだろう。
 ぴたりと、動かしていた足が止まる。
「なんで逃げてきたんだろ」
 明日会って気まずくなるより宮地さんが起きるまで待って土下座なりなんなりして今日のことはあたしも忘れるから宮地さんも忘れて、って言えばよかったと今更な考えが浮かんでくる。
 だからって今から戻るのも気が引けて、あたしはまた歩き出した。
 この雨が全部流してくれればいいのにと、思いながら。
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