あの頃…
第5章

とある日常3

「ねえ、立花ちゃんって黒崎病院に居たんでしょう?」

ああ、また来た

一体どこから湧いたのか

噂を聞きつけかわるがわるやってくる看護師や女医

これが休憩中ならまだ対応も考えるのに

こっちだって暇じゃないんだ、と心の奥で思う

「黒崎海斗先生ならきっと皆さんが思うような人ですよー」

こう返しておけば、「やっぱり?」と顔を輝かせて去っていくから楽だ

中には写真無いの。とか連絡先知らないの。とか聞いてくる人もいるけれど

そんなもの自分で手に入れればいいじゃないか

「まったく。私は研修で来てるって言うのにさ」

むすっとしながらまだ慣れない廊下を歩く

黒崎病院より閑散としたそこでしるふの嘆きを聞いてる人はいない

「やっぱりあれかな。近くにいると有難味も薄れるもんなのかな」

黒崎病院に居た時は海斗の研修医という立場だからと言って根掘り葉掘り聞かれたりしなかった

「頑張ってねー」と微笑まれることと

「あ、黒崎先生の」と意味深な笑みを向けられることはあったけれども
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