あの頃…
番外編

黒崎海斗の憂鬱

ふと窓の外を見上げれば、ひらひらと舞う淡いピンク色の花びら

その奥に見える水色の空

ああ、またこの季節がやってきた

と見るからに移り変わった風景と無意識にまくった白衣の袖に思う

冬には気にならないそれは、決まってこの時期になるとうっとうしさをもたらすのだ

そうやって季節を過ごすこと早6年

医者になってからの月日は早く

気が付くと医局でも古株と呼ばれる存在になった

自分より3年遅く医者になったあの真っ白な花でさえすでに3年目を迎えた

お世辞くらいには使えるようになったと最近感じている

なんて言ったらあの瞳が睨みつけてくるのはさすがに察しが付く

とは言っても15cmも下からでは迫力は全く感じず、

毎回こみあげてくる笑いをこらえるために視線を逸らす結果となる

最近腹が立つのは、3年たっても未だにあれに振り回されている自分

いったいどこで間違ったのだろうと自問しても

冷静な自分が見つける答えはいつも同じで

出逢ったあの瞬間からこうなることは決まっていたのではないかと思いさえするほど

それでも全てにうんざりしていたあの頃よりは

いや、比べることが間違っているほど今が楽しいと

医者でいたいと思えるのなら

あの瞳が笑っていてくれるのなら

この状況から抜け出すことなんてできないのだと本当は知っている

それがたった一人の女によってもたらされたということが少しばかり悔しいが
< 175 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop