あの頃…
そうやって二人分の荷物が置かれても、それでもまだ広い部屋は

あと二人くらい増えたところで閉塞感なんて感じないと思っている

そんな時を迎えるのは、ちょっと先か、それ以上先か

ああ、でも、いつだったかしるふが、木造の家って好きなのよねなんて

言っていたからそのうち家を建てるのもいいのかもしれない

「どうせ、金には困ってないしな」

そっとつぶやいた言葉は、静まり返った部屋に消えていく

「今日友達と飲みに行ってくるからー」

寝てていいよー

就業中、医局の階段ですれ違った時に向けられた笑顔が思い出される

自分の家には帰らないのか

と思ったが、そんな野暮なことは口にしない

気分屋で自由が好きで、でもさびしがり屋で素直じゃない

そんな彼女にそんなこと言おうものなら

「海斗がさびしいと思うからさー」

とかなぜか責任転嫁されるのが落ちだ

どうしてあんなのに落ちたんだろうと、どうして手放すことが出来ないのだろうと

最近よく自問する

その度に、それは相手がしるふだからだろうと分かりきっている答えが返ってくるのだ
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