Bloom ─ブルーム─
「……いいよ?」

私は最後の力を振り絞って笑顔を見せた。

「なんで笑うんだよ?なんで人のことばっかり考えるんだよ?」

「……」

そんなの、悲しい度に笑ってきた大樹先輩が一番よく知ってるくせに。

「言ってなかったっけ?

傷つけて傷つけられても、それでも大事なものつかみとれってさ。

自分の人生なのに、何で誰かに遠慮しなきゃならないんだ?って、いつか……友里亜ちゃんに。

なのに、自分は全然だろ?」

杏奈と喧嘩した時に言ったかも。

でも、あの後私はすぐに気づいたんだ。

人に言うのは簡単だけど、自分のことになるとそれはひどく難しくなるんだって。

それに、もし私が自分のことだけ考えて行動することが出来たとしても、やっぱり答えは変わらないでしょ?

「じゃあ……遠慮しなかったら、何か変わりますか?」

さっきの笑顔で最後の力を出しきってしまった私は、顔がひきつる。

1度消えた笑顔はもう戻せない。

「掴み取ろうとしても……」

ナナさんへの気持ちは変わらないでしょ?

潤み始めた瞳は、空気にさらされても、ひどい湿気で乾くはずもない。

私は慌てて先輩に背を向けた。

「いいんです、もう、大丈夫」

何が大丈夫なのかと聞かれたら答えられないけど。

この顔を気づかれない為に、何か話さなきゃと考えたらそんな言葉しか思い付かなかった。
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