Bloom ─ブルーム─
2013年 7月──




冬の終わりが特に遅かった今年。

入学式当日も、ちらつく雪を肩に乗せて登校となったけれど。

遅咲きの八重桜が散る頃、やっと私達の町にも夏がやってきた。

高校生になって初めての夏。

そして、初めての学祭。

その、最終日。

“初めて”続きの中で、私は、さらに初めての体験をしようとしていた。

「左側にいる、ほらベースの人!カッコいいでしょ?お化けの時よりやっぱり素敵」

興奮して叫ぶように話す隣の友里亜(ユリア)。

昨日2年生の出し物のお化け屋敷に行った時に、お化け役に一目惚れしたんだって。

幼馴染みの直人(ナオト)に情報集めをお願いして、そのお化けがバンドマンだと知ったのはついさっきのこと。

それが今日体育館でライブを開くなんて聞いたものだから、私達は大興奮でここにやって来たんだ。

でも、正直私はその場の空気に圧倒され、立っているのがやっと、という感じだった。

キャーキャーという耳に響く黄色い歓声と、ドラムやギターの爆音が私の頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回してる。

みんなのパワーがすごすぎる……。

初めて体験する、学祭ライブ。

ここに来るまでは、面白そう!なんて好奇心でいっぱいだったのに。

実際は予想以上の盛り上がりで、些か尻込み。



でも、それより何より、あのお化け屋敷で一目惚れする余裕があった友里亜にびっくりだ。

私なんて、突然暗闇の中でリアルなお化け(これが友里亜の恋した相手らしい)が出たかと思ったら下から伸びてきた白い手に足首を掴まれ、腰を抜かして歩けなくなったって言うのに。
< 3 / 315 >

この作品をシェア

pagetop