Bloom ─ブルーム─
「祗園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらはす──」
『空見て』
そんな簡単なメールが届いたのは、肌寒くなり始めたある日の午後。
友里亜が静かな教室で平家物語を朗読していた時だった。
朝から、しとしとと雨が降り続いていたはずなのに。
気づけば、どんよりした灰色の曇が勢いよく東の空へ流れて行ってる。
「おごれる人も久しからず
唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ
偏に風の前の塵に同じ」
そして、見えた青空から陽が差し込んでいた。
さらに、この時間。
私は手を上げると
「先生、お腹痛いので保健室行ってきます」
仮病を使って立ち上がった。
歩き出す私を見て、廊下側1番後ろの席の高橋君が静かにドアを開けてくれる。
目を合わせてはくれないけど、「ありがと」と言うと、小さくペコッとしたのが見えた。
「ね、高橋、これどういう意味だっけ?」
前の席の子が振り返って、上目遣いで聞いてる。
「は?さっき黒板に書いてたじゃん。見てなかった?」
「んー?忘れちゃった」
「ったく。しょうがねぇな。これは──」
教室を飛び出して向かうのはあの場所。
きっと彼も向かってるはず。
ほら、私と同じ、パタパタと上靴が廊下を叩く音が遠くから聞こえる。
そして、階段の踊り場で、私達は顔を見合わせた。