弁護士先生と恋する事務員


「もしかして…うちの事務所に用があるのかな?」


私はさりげなく声をかけて男の子に近づいた。

男の子は一瞬、びくっと体をこわばらせたけれど
振り向き私の顔を見ると

「あ、はい…。俺、ここの弁護士さんに聞いてもらいたい事があって…」

そう言って、眉根をぎゅっと寄せた。

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「そんなに緊張しなくてもいいよ、ゆっくり君の話を聞かせてもらうからね。」

応接セットに先生と男の子が、向かい合って座っている。

ブルー系のチェックのシャツに、ベージュのチノパン。
着崩さずにきちんと着ていて、子供なのにどこか品がある。

神経質そうな痩せ型で、黒髪に黒ぶち眼鏡が賢そうな印象だ。


(中学生くらい…だよね。だったらコーヒーはまだ早いか。紅茶…緑茶?)

私が彼に出す飲み物をあれこれ考えていると、男の子が切羽詰まった掠れ声で話し始めた。


「あのっ、ぼ、僕、神原尊(かんばら たける)って言います。中2です。あ、あのっ、うちの事でそ、相談したい事があって…」


(ああ、ガチガチに緊張しちゃって、なんだかかわいそう…そうだ。)

私はふと思い立って、そっと事務所から抜け出し一階にある自販機へと急いだ。

(これこれ、中学生男子と言えば…)


買ってきたのは炭酸飲料。
さっそく氷の入ったグラスに注いで尊君の前にそっと置いた。

「まずは、冷たい飲み物でも飲んで、それからお話、しましょうか。」


グラスの中では細かい泡がプチプチとはじけている。

尊くんは、ゴクリと喉を鳴らすと、砂漠の旅人みたいに一気に飲み干した。

 
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