弁護士先生と恋する事務員


「おっはようございまーす!」


「おはようございます。」


柴田さんと安城先生が次々に事務所に入ってきた。


スタッフ全員が揃ったところで、先生が渋々といった感じでみんなを呼び集めた。


「この前来たから知ってるだろうが一応紹介しておきます。『剣淵総一郎法律事務所』の剣淵先生、俺のオヤジです。

こちらはオヤジの事務所で働いている芹沢先生。俺と同期の弁護士先生だ。」


「やあ、みなさん、おはようございます。今日はこちらの剣淵先生に相談があってお邪魔してます。よろしく。」


相変わらず、ぱりっと生真面目にスーツを着こなした先生のお父さん
は、ハリのある声で私たちを見回しながら挨拶をした。


「芹沢冴子(セリザワ サエコ)です。光太郎先生とは学生時代からの腐れ縁というか…そんな感じです。どうぞよろしくね。」


モクレンの花のようにふんわりとほほ笑んだ芹沢さんの言葉には、先生との親密さをうかがわせるような含みを感じてしまう。


(学生時代からの腐れ縁……)


それってつまり―――?


「実は今回わたしの事務所でM&Wコーポレーションの顧問弁護士をたのまれましてね、この芹沢先生と光太郎先生、二人で受けて欲しいと、そういう相談に来たんですよ。

そういうわけで、ちょっと話をさせてもらいますね。」


総一郎先生がそう言うと、三人は応接セットに移動して話し合いを始めた。



(――どうして他の事務所の依頼を剣淵先生に?しかも芹沢先生とコンビで?)


私は食事会の時の先生の言葉を思い出していた。



『まあ、オヤジにはいまだに、早く事務所を継げって言われてるけどな』



剣淵先生のお父さんは、きっと光太郎先生を連れ戻したいんだ。


きっとこの顧問弁護士の件も、そのためのもの――


複雑な想いを抱えながら、震える手を堪えて


私は三人の前に、お茶を置いていった。

 
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