弁護士先生と恋する事務員
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「あー疲れた。さあ、キリのいい所で今日はもう帰るぞ。」
出先から帰ってきた先生が肩をぐるぐる回しながら芹沢先生に言う。
「何言ってるのよ、資料の整理は今日中にやるわよ。光太郎はAグループ、私はCグループ。ほら、今すぐやる!」
ファイルをバン、と剣淵先生の机の上に置いてハッパをかける芹沢先生。
“光太郎先生”と呼ぶのも忘れてすっかり呼び捨てになっている。
数日過ごしてみると、芹沢先生の意外な一面が見えてきた。
そのふんわりとした美女ぶりからは想像できないほど
忙しくなってくると仕事の鬼に変身するのだ。
きっと総一郎先生の事務所でも、大勢の弁護士さんと肩を並べて
バリバリやっているのだろう。
「そうだ、今夜は私の行きつけのお店でいい?小さなイタリアンレストラン、美味しいわよ。」
剣淵先生の返事も待たずにさっさと予約の電話をかける芹沢先生。
「20時に予約したわ。19時40分までに終わらせるわよ。あ、伊藤さん!私アイスコーヒーにしてもらえる?」
お茶を入れようとしていた私の姿を視界の端に映していたのだろう。
すかさず注文する芹沢先生。
―――で、できる女(ヒト)だ。
「柴田さん、このファイルの文章、打ち込んでもらえるかしら?
今取り組んでる仕事をちょっとだけ休憩して先にやってもらえたら嬉しいんだけど。
あ、大丈夫よ、この文字数だと柴田さんのスピードなら20分で終われるわ。」
スタッフのタイピング速度まで把握しているらしい。
ここまで言われたら先にやらないわけにはいかない。
「わかりました、20分で打ってみますね。がははは!」
柴田さんも俄然頑張り出す。
うちの事務所本来ののほほんとした雰囲気とは真逆だけれど
それはそれでいい刺激になって、みんなが芹沢先生のペースに巻き込まれていた。