弁護士先生と恋する事務員
「え……?」
「そうなの?」
「……………」
事務所の中が一瞬、シーンと静まり返った。
中でも一番絶句していたのが、剣淵先生だった。
「あれぇ?ヤダ、この事務所冗談通じない~」
ジュリアさんは軽い調子であっさりとそう言うと、
「ちょうど配達の人が来たから受け取っただけ。はーい、先生、ムカシ泣かせた女から。」
あらためて剣淵先生の手に花束を押し付けた。
「……のヤロー、びっくりさせんなよ!」
先生は立ちあがってガッとジュリアさんにヘッドロックをかませると、たくましい腕でギューギュー締めあげた。
「いたたた、痛ーい、痛ーい!バカバカ、離してー!」
「オヤジ心を弄ぶと痛い目に遭うって事を思い知らせてやる。」
先生はもはや楽しそうに意地の悪い顔をして、プロレスごっこに興じている。
先生もジュリアさんもあけっぴろげな性格だから、こうして見ると仲の良い兄妹みたいでちょっと羨ましくなった。
「ギブ、ギブ!ギブアップー!」
ジュリアさんが先生の腕をベシベシと叩くと、フン、まいったかと大人げなく高笑いして先生が手を離した。
「ママ、あのおじさん怖いよー!」
ジュリアさんが柴田さんに泣きつく真似をして、柴田さんは相変わらずがははと笑っている。
先生はそんなやりとりを無視して、花束の透明のラッピングフィルムをはがすことに集中している。
中から小さなメッセージカードを丁寧に抜き取ると、引き出しにスッとしまった。
(…そんなに大事な物なのかな)
「先生、花びんに飾っておきますね。」
私は先生の所へ行って花束を受け取った。
「ああ、頼む。」
そう言った時の、どことなく幸せそうなやわらかい笑顔を、私は複雑な気持ちで見つめていた。