弁護士先生と恋する事務員


花びんに差した、美しいシャクヤクが風に揺れる。


毎月見るこの光景が、事務所の平和の象徴みたいに思えてくる。


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チリンチリン。


「あー、この事務所暑!そういえばシオリん、シオリんの“手料理の会”次はいつやるの?ジュリも食べたーい!」


私のデスクに身を乗り出してジュリアさんが言う。


「うー…ん。、次は、どうかな。」

「ね、コータローセンセー、シオリん食堂、またやるんでしょ?いつにする?」


ジュリアさんが大きな声で剣淵先生に声をかける。


「あっ、でも、あんまり頻繁にやると事務所に食べ物の匂いが染み付いちゃうかもしれないし…」


実は食事会の次の日、先生が不調だった事を私は気にしていた。

先生は何でもないって言ってくれたけど、やっぱり揚げ物がきつかったんじゃないかと――


「食べ物の匂い?何言ってんだ、それなら毎日、うなぎ屋やらそば屋の匂いで充満してるだろ。そんな事気にしてんのか、詩織は。」


わはは、と笑って先生は言った。


「俺もまた食いてえなあ。来週は俺出張で事務所空けるし、今週末でもどうだ、詩織。」

「わ、私はいつでも大丈夫ですけど…」

「それじゃあ私も手伝うわ!先生、私と樹理亜も参加していい?」


柴田さんも身を乗り出して言った。


「王子は?王子ももちろん参加するでしょう?ジュリ料理はできないけど王子のお酌係りするから。」


(さすがに安城先生は参加しないでしょ。だってこの前正式に“お前が嫌い宣言”されてるしね。)


「うん、僕も参加させてもらうよ。いいよね、伊藤さん?」

「は、はい!?」


直接名指しされて心臓がドキリとする。(嫌な意味で)


「僕も参加して、いいよね?」


キラキラした笑顔を浮かべて私に許可を求める安城先生。


『―――偽善者。俺、そういう奴、一番嫌いなんだよ』


冷たい目で吐き捨てられた台詞がよみがえる。


(…たいした二重人格者だこと)


「も、もちろんです~♪私の料理でよろしければ、是非。あはは…」


私も大人ですからね。これくらいの二枚舌持ってるんですよー。


「うふふふ。」

「あははは。」


「ちょっと王子とシオリん、何ほほ笑みあってるの?アヤシイ!!」


バカな。

先生に続いてジュリアさんの目もフシアナと来た。


「やだあ、ほほ笑みあってなんか。ねえ、安城先生?」

「うん、ほほ笑みあってなんかないよね、伊藤さん。」


どうやら私達が水面下で大輪の花火ぐらいの火花を散らしているという事は

事務所の誰にも気づかれていないようだった。
 
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