弁護士先生と恋する事務員


ようやく西の空がピンク色に染まった帰り道。

夕飯の買い物をした私は、コンビニに寄る事にした。

目指すのは雑誌コーナー。


有名モデルや人気女優が表紙を飾る、ファッション雑誌がずらりと並んでいる。


ストリート・カジュアル

大人ガーリー

大人ギャル?

モード

フェミニン

セレブファッション……


(どれを買ったらいいのか全然わからないなあ)


雑誌コーナーの前で、途方に暮れる私。


今までずっと、地味に暮らしてきた私が

いきなりオシャレをしようと思っても、それはもう浦島太郎状態。


玉手箱を開けたらいきなり大人になってたみたいに

自分に何が似合うのか、どんな風になりたいのか

どの雑誌を見てもピンとこないのだ。


(こうなったら…適当に選んで家で研究だ)


私は目の前に並んだ三冊を抜き取って、レジへ向かおうとした。

と、その時…


「セレブファッションはないでしょ。」


後ろから、心底呆れた声が聞こえて来て、慌てて振りかえると


「あ、安城先生っ…」

「適当に選んだにしても、程度ってもんがあるでしょ、程度ってもんが。」


(うわ、サイアク。よりによって安城先生に見つかるなんて…)


「モード系もないな。だいたいこんなの自分に似合うと思ってんの?」


安城先生は私の手から雑誌を抜き取ると、三冊とも棚に返してしまった。


「ああっ!ひっど!」


私の抗議を無視して、「伊藤さんだったらせいぜい…」

そう言いながら、さっきとは違う雑誌を三冊抜き取った。


「この辺じゃない?」

「え…」


手渡された三冊の表紙に目を落とす。


「『きれいカワイイ通勤ファッション』『毎日着たいナチュラルおしゃれ服』『お仕事からデートまで、夏のヘアアレンジ100』……

なるほど!そうですそうです、こういうのを探してたんですよ!」


(安城先生、一瞬にして私のニーズを見抜くなんてすごい!見直しちゃった。)


ちょっぴり尊敬のまなざしで安城先生をみつめると、


「ウザッ」

「はいっ!?」


聞き間違いかと思い周りを見回したけれど、私と安城先生しかいない。


(今私に向かって言ったんだよね、『ウザッ』って……)


やっぱり憎たらしい!尊敬撤回!!
 

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