白紙撤回(仮
翌朝、朝食も取らずに家を出た。

と言うか家に食べ物がなかった。
家には電気の切ってある冷蔵庫にマヨネーズとケチャップと何故か賞味期限の過ぎた謎の豆板醤が入っているだけだ。

それより昨日の夜はなかなか寝付けずに返済のことばかり考えていた。

始めは少しの額だったがここまで膨らんだ借金。
今、考えると手元にない金を返済のあてにして調子よく借りたのがいけなかった。

他人にケツを拭かせる罪悪感と情けなさに溜め息が出る。

それでも市ヶ谷に会わなければ一括返済と言う道はなかった。
他人の多額の借金を保証なしで一括返済してくれる奴なんて普通いない。

本当に市ヶ谷は金を用意してくれているんだろうか?

半信半疑のまま市ヶ谷の家に着くと、寝起きらしい市ヶ谷の声がマンションの玄関のインターホンから返ってきた。
部屋の前まで行き、家のインターホンを押すとやはり寝起きらしい市ヶ谷がドアを開けて出迎えた。

「……おはよう。山科君、今日は早いね……」

「悪い。寝てたっぽいな?」

「うん……ま、いいや、入って?」

部屋に招かれて中に入るとローテーブルの真ん中に白い紙袋がドンと置いてあった。
気になったが、特に口にせずソファーに座ると冷蔵庫を開けながら市ヶ谷が何でもないようにそれを口にした。

「朝飯食べるけど山科君も一緒に食べる?」

「え、マジで?いいのか?」

「うん。あ、その紙袋、三百万入ってるから後で持って帰って?」

「ん……えっ!?」

思いっきり二度見。
俺は紙袋を見たまま絶句した。
無造作にポンと置かれた大金を何でもないように……お土産でも渡すかのように市ヶ谷は口にした。

思わずソファーから立ち上がった。

「いやいやいや!三百万!?こんな所、無造作に置いとくなよ!?大事に仕舞っとけよ!?」

「あげるんだし仕舞う必要ないよ」

「いや、借りるんだろ!絶対、返すからな!?てか三百万!?」

「……落ち着いたら?朝からうるさいよ」

冷静な市ヶ谷に対して取り乱した俺が滑稽な気がして、黙って再びソファーに腰を下ろした。

市ヶ谷は約束通り金を用意してくれていた。
しかも多く……。
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