白紙撤回(仮
シャワーを浴びながら俺は状況を整理した。

知らない奴の家で俺は何してんだ。
あぁ……そうだ。
川に落ちた。

借金……どうすんだよ。

とにかく明日の昼、家に帰ってみよう。
考えても頭が回らない。

「着替え、ここに置いとくよ……」

突然、市ヶ谷の声が耳に入り飛び跳ねるほどビックリした。

「すいません。ありがとうございます!」

磨りガラス越しにいる市ヶ谷に礼を言い俺はそそくさ体を洗い始めた。

悪い奴じゃなさそうだ。
俺は市ヶ谷を都合のいいように解釈する事にした。
服を着替えてリビングへ行くと市ヶ谷はベランダの窓をあけ煙草を吸っていた。

「ありがとうございます。助かりました」

「……いいよ。助け合いは大切だ」

市ヶ谷は薄く笑い俺に飲み物を勧めた。
周りを見渡すと部屋の壁に所々、傷があった。
俺はさほど気にとめず出されたお茶を飲み市ヶ谷から煙草を一本貰った。

ベランダの近くに行くと窓から風が流れ込み、俺は吐き気を催した。

「う……なんすか!?この臭い……」

異様な臭いに俺は鼻と口を塞いだ。
何か腐ったような異臭だ……俺が落ちたドブ川なんて可愛いもんだ。

市ヶ谷は何でもないように暗闇のベランダを指差した。

「あれだよ……このままほっといたら腐っていくのかな……」

家の中の光が市ヶ谷の指差した方まで微妙に届いていない。
俺は鼻と口を押さえながら、身を乗り出して市ヶ谷の指差した物を見ようとした。

――瞬間、
全身に鳥肌がたっていくのがわかった。
同時に胃の中の物が上がってきそうになる。

市ヶ谷は、呆然とする俺を横目に平然と口を開いた。

「死んでるんだよ……あれ。どうしよう」

市ヶ谷の部屋のベランダには死体があった。
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