白紙撤回(仮
寒気で鳥肌がたっているのに脂汗のようなものが滲んでくる。
体が熱いのか冷たいのかわからない。

初めて見た信じがたい光景に声も出来ない。唾さえ飲み込めない……。

――中学生くらいの女の子。
ベランダは暗かったが、人間の輪郭がハッキリ見えた。

「……あんたが……」

殺したのか、と言う後の言葉が続かず俺は息を飲んだ。
市ヶ谷は薄く笑ってベランダを眺めている。

沈黙の中、市ヶ谷はフフッと笑って口を開いた。

「……人間って不思議なものだね。あれだけ隠したかったのに……。手に負えない秘密を抱えるとさ、誰かと共用したくなるらしい……」

「……共用って……」

俺は恐怖のあまり、後ずさった。
殺人者を目の前に殺されるかもしれないと言う緊迫……混乱。
そんな俺にお構いなしで市ヶ谷は話を続ける。

「君は困った事情を抱えている……。僕も同じだ。それをお互いに共有しよう」

俺は市ヶ谷の提案に耳を疑った。

「冗談じゃない!!あんたのは殺人だ!俺の問題は借金だ!重さが全然ちがう!!」

「……へぇ、借金。いくら?」

「……三百万くらい……あとヤミ金で五万……」

「ヤミ金?金利は?」

「十日で三割……」

聞かれるまま答えると市ヶ谷はまたフフッとバカにしたように笑った。

「……トサンか、きついのによく借りたね?で、借金返済のあてはあるの? 」

「……ない」

「君の借金……もし、ギャンブルで作ったなら自己破産を裁判所に申請しても免責にならないよ?」

「……自己破産……裁判所……」

俺は考えもしなかった単語にキョトンとした。

「……君が女なら……間違いなくヤミ金で流されるね。まぁ、男でもあるのかな……」

「……流される?」

「金融流れだよ。もとは質に入れたものが小売に流れることだけど……簡単に言えば風俗店で働かされたりAVに出されたり……。女ならそれ。男の場合は知らない。どうだろうね?」

市ヶ谷は俺の不安を煽るように喋るだけ喋って黙った。
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