たなごころ―[Berry's版(改)]
 笑実の眸を見つめ、箕浪は徐に上体を再び起こした。今度は、笑実の制止も聞かない。それで出来たスペースを叩き、顎で促す。首を傾げる笑実に、箕浪は言葉を投げる。

「座れ。ベンチが固くて、大事な俺の身体が痛むんだ。膝を貸せ」
「また、偉そうに」
「少しだけていい。……頼む」

 箕浪の頼むと言う言葉に。笑実は困惑の表情を浮かべながらも、言われるままに腰を下ろす。膝の上に箕浪の頭を乗せて。寝心地を確認し、満足げに頷いてから。眸を閉じたまま、箕浪は語り始めた。

「ひとつ、昔話を聞かせてやろう。昔々、それは可愛く、賢い男の子がいた」
「……何故でしょう、嫌な予感がするんですが」
「いいから、黙って聞け。その男の子は、両親や周囲の愛情を一身に受け成長し、小学生になった。まっすぐな性格の少年は、たくさんの友達が出来た。運動神経もよくて、クラスでも人気者だった。毎日を、それは楽しく過ごしていたある日。彼は誘拐された。学校の帰り道。一緒に居た友人とふたり」

 箕浪の告白に、笑実は固唾を呑む。いつも通り、箕浪の眸を覆い隠している前髪を掻き分け。サングラス越しに。閉じられているせいで見られない眸の変わりに、瞼を見つめた。

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