たなごころ―[Berry's版(改)]
 ※※※※※※

「鈴音、離せ」
「いやよ」
「いい加減にしろ!」

 口を尖らせ、自身の腕にしがみ付く鈴音。箕浪は眼鏡を取り、鈴音の眸を捕らえる。今までにない、真剣な眼差しで。遮るもののない、箕浪の視線を受け止め。鈴音は息を呑む。

「鈴音。小さい頃から、辛い時も、悲しいときも。俺は鈴音の笑顔に助けられてきた。情けないと思いながらも。年下のお前に、甘えてきたと言ってもいいだろう。鈴音の我侭を聞いて、叶えてあげることで。あの頃の俺は、自分の存在意義を見出していたんだ。『わにぶちの箕浪』と言う立場に関係なく、鈴音は俺を慕ってくれていたから。俺が欲しかった、理由がなくとも自分の味方で居てくれる存在。鈴音が、その存在で居てくれるのなら。俺は何でも出来たんだ。だからこそ、鈴音の裏切りが許せもしなかった」
「だから、謝るわ。あの頃の私は不安だったの。箕浪さんが、私を本当に必要とされているのかが分からなくて」
「……いや、鈴音の言う通りなんだよ」
「え?」
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