たなごころ―[Berry's版(改)]
「誰でも良かったんだと思う。鈴音には酷い話だろうけれど。傍に居て寄り添っていてくれる存在なら、誰でも。ただ、幼馴染と言う身近な存在が、鈴音。君だったと言う理由だけだった。だから、あの頃、鈴音を追いかけて理由を問いただすことも出来なかった。自分が傷つくことが、なによりも怖かった。離れてゆくならばと、すぐに諦められる程度でもあったんだ」
「……やりなおせるわよ。私たちなら、今からでも遅くないわ」
「遅いよ。そのことに気付いてしまった今は。自分が傷ついたとしても、傍に居て欲しい。傍に居てもらえるよう、守れるよう。自分が強くなればいい。認めてもらえる存在になればいい。そう、気付かせてくれた人と。出会ってしまったから。……すれ違ってしまった思いは、引き返せないんだ。掛け違えたボタンのように。人の思いも、時間も。簡単に元には戻せないんだよ。鈴音」
「……箕浪さんはもう、前に進むのね」
「ああ」
「ずっと昔の。箕浪さんに戻ったみたいね」
「ああ」

 鈴音の腕が、箕浪のそれから。ほろりと解け、やわらかいドレスの上にぽとりと落ちた。頬を伝った雫と共に。


< 140 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop