たなごころ―[Berry's版(改)]
 箕浪は口元で弧を描いた。

「俺と、笑実の鼓動が重なってる……。猪俣笑実。分からないなら、今、確かめようか?」
「え?」

 笑実の吐き出した言葉が、箕浪の口腔内へ消えてゆく。笑実の下唇を啄ばむ様に、箕浪は自身の唇で挟む。優しく、優しく。時折、軽く歯を立てて。刺激を与えながら重なり合っていた互いの唇は、物足りなさを感じたように、深さを増していった。
 足りなくなった酸素を補うため、僅かに開いた笑実の唇の隙間から。するりと箕浪の舌が差し込まれる。箕浪の行動に、驚き、逃げようとする笑実の舌を。箕浪は追いかけて絡み、吸い付く。
 笑実の左胸の上にあった箕浪の掌は。いつの間にか、笑実の後頭部に回っていた。そっと、包み込むように。だが、しっかり。
 感触の違う互いを楽しむように。箕浪の舌は、笑実の舌だけではなく、頬の内側や上顎までも触れてゆく。その行為に、嫌悪感など全く感じない。むしろ、涙が溢れそうなほどの幸福感が湧き上がってきていた。
 笑実は眸を閉じた。箕浪をより近くに感じるため、彼に身を委ねるように。

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