たなごころ―[Berry's版(改)]
 喜多は、笑実を学の件に巻き込んだと表現したが。結果的に、笑実が役に立ったことはひとつもないはずである。最後の場面に、笑実が立ち会う形にはなったが、決着を付けたのは箕浪だ。笑実は何もしてはいない。
 喜多が隠そうと思えば、どうにでも言いくるめられた話でもある。にも関わらず。喜多は笑実に真実を告げた。それは何故か……。
 喜多が、笑実を巻き込もうと目論んだことは、簡単に許せることではないかもしれない。だが、彼が予感を信じ、判断しなければ。笑実は箕浪と関わることもなかったのだ。きっかけを与えてくれたのは、他でもない。喜多である。
 笑実は、腹部にある箕浪の手に、自分の手を重ねる。先ほどは、答える機会を逸してしまっが。喜多の言葉に隠された思いを受け止め、応えるように。箕浪の手を、強く握り締めた。

 ※※※※※※

 笑実と箕浪は、場所を移し、プライベートルームに居た。小さなキッチンで、笑実は紅茶を入れる。湯が沸くのを待つ笑実を、箕浪が後ろから抱きかかえていた。優しく、包み込むように。髪で隠れた首筋を鼻先で探し当て、箕浪は唇を寄せる。小さなリップ音と共に、ざらりとした感触が笑実を襲う。全身に、甘い痺れのような刺激を感じ、熱の篭ったため息が笑実の口から零れる。顔を寄せたままに、箕浪は口を開いた。

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