たなごころ―[Berry's版(改)]
「今日が、最後なんだな……」
「怒涛のひと月でしたね」
「なあ、笑実。契約とは別に。アルバイト続けないか?もちろん賃金は出すから」

 箕浪の腕の中で、笑実は身体を捻る。向き合う形に体勢を変え、笑実は箕浪を見上げた。少しだけ眉を上げて。両手で、箕浪の頬を包み込む。

「箕浪さん。私達、付き合ってるんですよ。アルバイトなんて名目がなくても、会いに来ます。……本の整理も、結局は最後まで終わってませんし」

 笑実の言葉を聞き、箕浪の頬が緩む。わにぶちの名前でもなく、金でもなく。箕浪と言う一個人を尊重し、大事にしてくれている笑実の発言に、箕浪は喜ばずには居られない。
 これ以上ないほど、愛おしいと言う気持ちを込め。箕浪は笑実を抱きしめた。感謝の言葉と共に。

 箕浪は、突然笑実を掬い上げる。笑実とて、予感も期待もしてはいた。箕浪の顔を覗き込めば、悪巧みを思いついた子供のような笑みを浮かべている。

「さて、準備も整えたことだし。この間の続き。いいよな?」
「箕浪さん……その前に、シャワーを浴びたいです」
「……猪俣笑実。この期に及んでまだ、焦らすのか?……予想外に、小悪魔だな」

 苦笑を浮かべる笑実を抱えながら、箕浪は浴室へと足を向けた。


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