たなごころ―[Berry's版(改)]
いや、例え喜多との契約がなくとも。笑実は誰にも相談できなかったことだろう。当事者である学との間で決着をつけることも出来ず、自身の中ですら結論を出せていない笑実には。
再び、食事を再開したふたりに、影が差す。笑実が顔を上げると、そこには見知った人物が立っていた。学が所属する研究室の指導助教授・犀藤一美《さいとう かずみ》だ。
「隣、いいですか?」
「犀藤先生、どうぞどうぞ」
笑実の隣の空いていた席に、犀藤はドサリと腰を下ろす。テーブルに投げ出されたトレイには、サラダとスープだけが乗っていた。その動作は非常に乱暴なもので。弾みでスープが少量トレイにこぼれてしまう。視線を犀藤に向けると、彼の顔色は悪く、目の下には隈が見られた。
犀藤は、図書館を利用することも多く、学との関係が出来る前からも、笑実とは親しい間柄であった。彼の気さくな人柄と、30代後半と言う年齢の近さも関係を深められた要因だろう。
だが、過去の付き合いを振り返っても、これほどまでに疲弊している犀藤を、笑実は知らない。犀藤はどれだけ忙しい時でさえも、身なりを気にする人物であった。パーマのかかった少し長めの髪を、きっちりとひとつに縛っているのだ。着ている衣類にも、綺麗にアイロンが掛けられ、清潔感を感じさせるほどだったと言うのに。
再び、食事を再開したふたりに、影が差す。笑実が顔を上げると、そこには見知った人物が立っていた。学が所属する研究室の指導助教授・犀藤一美《さいとう かずみ》だ。
「隣、いいですか?」
「犀藤先生、どうぞどうぞ」
笑実の隣の空いていた席に、犀藤はドサリと腰を下ろす。テーブルに投げ出されたトレイには、サラダとスープだけが乗っていた。その動作は非常に乱暴なもので。弾みでスープが少量トレイにこぼれてしまう。視線を犀藤に向けると、彼の顔色は悪く、目の下には隈が見られた。
犀藤は、図書館を利用することも多く、学との関係が出来る前からも、笑実とは親しい間柄であった。彼の気さくな人柄と、30代後半と言う年齢の近さも関係を深められた要因だろう。
だが、過去の付き合いを振り返っても、これほどまでに疲弊している犀藤を、笑実は知らない。犀藤はどれだけ忙しい時でさえも、身なりを気にする人物であった。パーマのかかった少し長めの髪を、きっちりとひとつに縛っているのだ。着ている衣類にも、綺麗にアイロンが掛けられ、清潔感を感じさせるほどだったと言うのに。