たなごころ―[Berry's版(改)]
同僚も同じように感じたのだろう。目を丸くした彼女と笑実の視線が意図せず絡む。
大きく息を吐き出し、うな垂れるように髪をかき上げた犀藤に。堪らず笑実は尋ねた。
「先生、お疲れですね。どうしたんですか?」
「いや、ちょっと最近事件が立て込んでてね。さすがの私も参ってるんです」
「事件?」
犀藤は、目頭を右手で揉みながら、笑実の問いに答える。
「製薬会社と提携を組んで開発している新薬のデータの一部が、他社へ流れていたんです。最近行った実験の結果で、今までの参考数値に間違いが見つかったので。流れたデータは使い物にならないとわかったんですが……。それでも、この世界は発表したもの勝ちなところがありますから、冷や汗ものでした」
「それは……」
「これだけでも大問題ですが。実は、今回が初めてではないんですよね。今年度に入ってから。前にも、販売直前の臨床データが提携会社よりも早く他社が発表していたり。今後、データ管理について見直そうとしているところなんです。だからと言って、研究の量が減るわけではなくてね。普段よりも会議の数が増えてしまって。本当に参ってます」
「――先生も大変ですね……お疲れ様です」
大きく息を吐き出し、うな垂れるように髪をかき上げた犀藤に。堪らず笑実は尋ねた。
「先生、お疲れですね。どうしたんですか?」
「いや、ちょっと最近事件が立て込んでてね。さすがの私も参ってるんです」
「事件?」
犀藤は、目頭を右手で揉みながら、笑実の問いに答える。
「製薬会社と提携を組んで開発している新薬のデータの一部が、他社へ流れていたんです。最近行った実験の結果で、今までの参考数値に間違いが見つかったので。流れたデータは使い物にならないとわかったんですが……。それでも、この世界は発表したもの勝ちなところがありますから、冷や汗ものでした」
「それは……」
「これだけでも大問題ですが。実は、今回が初めてではないんですよね。今年度に入ってから。前にも、販売直前の臨床データが提携会社よりも早く他社が発表していたり。今後、データ管理について見直そうとしているところなんです。だからと言って、研究の量が減るわけではなくてね。普段よりも会議の数が増えてしまって。本当に参ってます」
「――先生も大変ですね……お疲れ様です」