たなごころ―[Berry's版(改)]
「さっきのスカイプ。イタリアからの注文。うちの店は、外国のお得意様も多いの。少なくとも英語は必須。本社絡みの依頼も来るから、品がある人間じゃないと無理だ」
「本社?」
「まさか、古本・貸本屋や探偵だけで生計を立てているわけないだろう。こっちは言わば副業だ」
「その本社様はどんなお仕事なんですか?」
「もし聞いたら。あんた、恐れ多くて俺の前に立っていられないよ。それでもいいの?」
「……」

 笑実は、自分の中で堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がした。自身でも、気が長くないことは十分に理解している。ご機嫌に、口笛さえ吹き出しそうな表情の箕浪に。鋭い視線を一度向けてから。笑実はその場を後にした。満足げに口元を緩めた箕浪は、その後姿に声を投げ掛ける。

「喜多には俺から話を通しておくから。明日から来るなよ」

 くるりと振り返り、表情を変えぬまま、笑実は言葉を返す。

「いいえ!私、一度した約束は最後まで全うする性質なんです。『復讐』が果たされる1ヵ月後まで通わせていただきます。そういった契約ですので」
「なっ!あんたじゃ役に立たないと言ってるだろう!」
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