たなごころ―[Berry's版(改)]
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 ガラガラと大きな音と共に、笑実はビニール袋へ氷を放り込んだ。一緒に、少量の水を入れ、口を固く結び、更にはタオルでくるみ完成である。強かに打ってしまった箕浪の後頭部を冷やすものだ。出来たそれを手に、振り返りと。笑実のすぐ側に、喜多が立っていた。驚いた笑実は、思わず身体を引いてしまうが。喜多は気にすることなく、笑実に言葉を投げる。

「ここの。プライベートルームの出入りを。箕浪が許可したの?」

 笑実は、やや戸惑いさえ感じられる喜多の問いに、ただ首を縦に動かせた。肯定の意味で。
 ふたりが今現在居る場所は。2階にある、ガラスの壁で仕切られた部屋だった。事務所からは見えないよう、ブラインドが下ろされているあの部屋。この一室には、小さなキッチン、食器棚や冷蔵庫。他にはダイニングテーブルなどが置かれている。笑実が借りたことのある風呂場もこの部屋の一角にあった。それと同時に、箕浪のプライベートルームでもあったのだ。この場所以外にも、箕浪は別宅を所持していると自身で口にしていたが。笑実は未だに、箕浪が閉店後に別宅へ帰る姿を見たことがない。ほとんどの寝起きを、このプライベートルームでしているのは疑いようのない事実でもあった。

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