たなごころ―[Berry's版(改)]
「今度、おじ様の会社が開発する駅前の商業施設。そことの提携をうちの――鯵坂《あじさか》の系列ホテルが組むことになったのよ。箕浪本部長なら、すでにご存知なことでしょう?」
「……鈴音。お前は、その実家が嫌だからとアメリカへ行ったはずだろう」
「人生はいろいろあるものよね。去年、日本へ戻って会社の手伝いをしているわ。今はホテル関連のすべてを任されているのよ」

 苦しさのあまり、溢れ出る涙を拭いながら。笑実は息を整えつつふたりを伺う。初対面ではないであろう会話と、含みある互いの視線。箕浪と目の前の女性に、何かしらの過去があることは明らかだった。
 むくりと。自身の中で育つ気配を漂わせ始めた『好奇心』を。笑実は拳で叩きのめす。これ以上関われば、厄介ごとになるであろうことも、明らかだからだ。
 ぷつりと途切れてしまった会話と共に、再び重い沈黙が室内を漂い始めた頃。わざとらしい咳払いがひとつ。少し肉付きの良い、光沢のあるスーツを召した会長によるものだ。

「まあまあ。久しぶりに再会したんだ。積もる話もあるだろうに。今後のこともある。箕浪、今日は鈴音さんを送ってあげなさい」
「……父さん。もし。喜多も巻き込んで、今後もこんな手で俺を本社へ呼び出すのなら。覚悟しておいてくれよ」
「なっ!箕浪!!」
「猪俣笑実、いくぞ」

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