たなごころ―[Berry's版(改)]
 横柄と言っても構わないだろう態度を取っていた鈴音の肩が、瞬く間に小さくなる。箕浪も、留めることが出来ないほど湧き上がっていた怒りを一度吐き出したせいもあるのだろう。少しだけ、冷静さを取り戻していた。後方へ倒れてしまった椅子に手を伸ばし、元の位置へと戻す。再びそれに腰を下ろしてから、鈴音を仰ぎ見た。眉尻さえも下がってしまった鈴音の顔を。

「随分と都合のいい話だな。俺は話していたはずだ。俺の手を一度離したら、俺からは追いかけないと」
「でもっ!」

 一歩踏み出そうとした鈴音の肩を、誰かの手が押し止めた。不自由になった身体を捻り、鈴音は背後を確認する。そこには、眸を細めた喜多の姿があった。鈴音は再び、唇に歯を立てる。今度は、悔しさのあまりにだ。隙間から、搾り出すように。鈴音の言葉が零れる。

「っ、喜多さん……」
「今日はもういいだろう、鈴音。これ以上は日を改めてくれ。俺も箕浪も予定がある」
「邪魔しないで」
「今、邪魔なのは鈴音。君だ。一度再会して、箕浪から心を開かなかったら、素直に手を引く約束だっただろう?結果は十分わかったはずだ」
「まだ分からないわよ!だって、箕浪さんは。まだ、あの時と同じ場所に居るじゃない!」
「鈴音!」

< 71 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop