狂奏曲~コンチェルト~
「残念だな。私、自分で言いたかった」
「……かなめ……」
蒼白な顔で掠れた声を出す翼。
「私、全然覚えていないんだけどね」
「……知ってる」
翼は痛ましそうに顔を背けて、
「有紀に聞いてた。覚えてないなら、そんな辛い記憶思い出さなくていいだろ」
ぎゅっと、私の手を握る手に力を込めた。
「俺は、かなめと一緒にいられれば、それでいい」
「翼……」
どうして、翼の声は震えているの?
ねぇ、どうして、翼の手は震えてるの?
「翼、無理してない?」
翼が、悲しそうな顔で私を見た。
そして、ぐいっと引き寄せられ、気づけば翼の腕の中にいた。
「俺は、お前がこうして一緒にいてくれるだけで良いから」
翼が耳元でそうささやく。
その声が一気に不安を払拭して、くすぐったくて、涙が出そうになった。
「何も、余計なことは考えなくていいから」
「……翼も、難しいことは考えなくていいからね」
私達はただ、二人で抱き合って、一緒にいられる幸せをかみ締めた。
私は知らなかった。
何が翼を苦しめているのかも。
私がいったい何を忘れていたのかも。
私達の奏でる旋律が、少しずつ重なって一つのメロディーになったことに浮かれて、ただ、この幸せが続けばいいと思っていた。