恋と愛とそれから彼と
それから宜しく。
事の発端は、詩的に言えば「運命の悪戯」で、散文的に言えば「事の成り行き」だった。
「贅沢言わないから住んでもいい?」と意味不明な言葉を吐いた彼を、私は奇しくも受け入れてしまったのだ。
受け入れたのか、その容姿に負けたのかはさて置いて。
「そのうち贅沢言うくせに。」
『言わない、言わない。大丈夫。』
『だってナオ相手だもん。無理でしょ、絶対。』
まぁ無理ですけれど。
そんな収入があるわけでもなしに。
他に手段はないのだろうか。
例えばそう、金持ちのマダムに媚びを売ってみる、だとか。
「ハヤト、」
『なに?』
「今ならまだ間に合うよ。出て行ったって構わないんだから。」
『今ならまだ間に合うよ。追い出したって構わないんだから。』
にっこり。
悔しいを通り越して呆れてしまう。
これほどの容姿をお持ちの彼が、さほど広くない部屋に、平々凡々な女子と暮らす利点はあるのだろうか。無い。皆無。
しかし、だからと言って追い出すような非道な精神を培いながらに生きてきたわけでもないのだ。
詰まりは既に、結論が出ていることになる。
これは少し悔しいかもしれない。
それを知ってか知らぬか、彼はやはり笑みを絶やさずにいる。
弱味を握られているようで、私は思い切り顔をしかめた。
『ナオはやっぱり優しいね。』
「‥‥‥仕事はしてないの?」
『職業はニートです。』
「せめて働いてよ。」
『嘘だよ。スーツ着て仕事してる。』
ふふん、と悠長に鼻歌を鳴らし、決して大きくないソファーへと腰を下ろした。そして足を組む。
憎たらしいほどに足が長い。
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