シュガーレスキス
 先週はお腹の子のエコーを見る為に、聡彦と一緒に病院へ行った。
 彼がどうしても動いている赤ちゃんが見たいというから、少し恥ずかしかったけれど、電話で夫になる人が一緒に行く事を病院に伝えてから出かけた。

「俺が婦人科に足を踏み入れるなんて、一生無いと思ってたんだけどな」

 さすがに女性だけしかいない待合室を見て、彼は足を一瞬止めた。

「私だって検査受けてるところ聡彦に見られたくないよ。でも、まあ……生命の神秘を
 
 見るのは悪くないと思うし。一度見てみて。すごく不思議な感じになるよ」
 彼の手を握って、私の方が少し励ますかたちで待合室に入る。

 エコー検査は、少し膨らんできた5ヶ月のお腹をさらして行われる。
 にゅるっとしたゼリーみたいなものをお塗られて、するするとエコーがお腹の上を滑る。

「これが胎児です。順調みたいですね」

 白黒の良く分からない画面の中でも、心臓のトクトクいっている様子は分かる。
 聡彦は目を皿のようにしてそれを覗き込んでいた。

「えと、これが頭ですか」

「そうですよ。手も足もちゃんとありますしね。うちはカラーじゃないので分かりにくいかと思いますが……これだけでも結構人間の形をしているのは分かりますよね」

「はい。いやー……本当に人間が育ってるんですね」

 すごく素直に驚いて感動している聡彦を見て、私はクスッと笑ってしまった。
< 268 / 281 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop