シュガーレスキス

1-5 守るべきもの(SIDE聡彦)

SIDE聡彦

 菜恵の体調は一時心配したけれど、特に問題になるような事はなく、順調に経過している。

 どうやって話題を出そうか悩んでいた沢村さんの事も、彼女から口にしてきた為、お互いにどういう気持ちでいるのか確認しあう事で彼女への対応の方向性は見えた。

「一度かなりきつめな事を言ったんだ。それ以来手紙を書いてくる事も無くなったし、病院へ行くと言って早退する事も無くなった。俺に対しては逆に冷たいぐらいの態度だから……彼女の中で何かが変化したんだろうと思うよ」

 会社での彼女の様子をそのまま菜恵に伝える。

「そう……。だったらもういいのかな。彼女はちょっと私には想像できない思考回路をしているみたいで、どうにも話し合うっていう展開は無理みたいだったから」

「もう菜恵は彼女に関わらなくていい。関わって欲しくない。職場で何かあれば、菜恵には報告するし。とにかく余計な不安は抱えなくていいから」

 ここまで言うと、菜恵も安心した顔をして“そうするね”と言った。

 菜恵が言った通り、沢村さんの思考回路はちょっと独特だ。
 自分の要求を通そうとする強引なところを、本人はあまり気付いていない。
 アルコールのせいで説教の効果がちゃんと届かなかったのかもしれないけれど、その後彼女が自分の言動を“恥ずかしかった“とか”申し訳無かった“という態度を見せた事は一度も無い。
 正直、俺の方があの日の自分を思い出すと頭に血がのぼるぐらいだ。
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