あの夏の季節が僕に未来をくれた
そう思って仕方なく別のおかずに手を伸ばす。


すると母がおもむろに席を立って、何かを作り始めた。


しばらくして戻ってきた母の手には、皿に乗せられただし巻き玉子が置かれていた。


「はい、好きでしょう?」


思わず母を見た。


にっこり笑う母の顔には少しだけ悲しみの色が宿っていて。


口には出さないけど、俺だってもしかしたらわかってるんじゃないかって。


何となくだけどそんな気がしたんだ。


「ありがと、いただきます」


涙が出そうになった。


そう、思い出したんだ。


だし巻き玉子は俺しか食べなかったことを。


兄貴も父さんも一つくらいは食べるけれど、それほど好きなわけじゃなかった。


だから毎朝食卓にそれが並べられていたのは。


俺のためだったんだと……


涙を堪えながら食べただし巻き玉子は口の中で甘さがフワッと広がった。


もう二度と食べることは出来ないと思っていたのに。


こうして食べられる喜びをどうしても伝えたかった。


「母さん、ありがと

すごく美味しいよ」


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