あの夏の季節が僕に未来をくれた
その時の母のなんとも言えない笑顔は、俺の中にずっと残るだろう。


きっとこれでもう母の料理を食べることも、会話することさえ叶わない。


本来ならとっくに出来ないことだったのだから、こんなチャンスを与えてくれた神様には感謝しなくちゃいけないと思う。


そんな様子をじっと見ていた父が、ふいに口を開いた。


「……お前は今、幸せか?」


どんな意図で聞いたのかはわからない。


兄貴に今、そんなことを聞くのは不自然だ。


だからもしかしたら俺に対して言ってるのかな、なんて思ったけど。


それでも今、ここにいるのは兄貴で、俺なんだと思われてはいけないと思った。


ここにいる全員が実は俺だってわかっていたとしても、それは口に出して言うべきじゃないと……


だから俺は兄貴の体で兄貴のふりをしながら、自分の言葉で伝える。


「うん、幸せだよ?

父さんも母さんも元気だし……

家族も仲良い方だと思うし」


「そうか……そうだな?
お前が幸せなら……それでいい……」


父はそれだけ言って席を立った。


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