あの夏の季節が僕に未来をくれた
「何言ってんだかわかんないよ……」


それだけ言って、目を逸らす。


すると彼女が確信めいた声で言ったんだ。


「すみれちゃんて呼ぶのはあの人しかいないもの……

あなたがもしお兄ちゃんの方だとしたら、私のこと……先生って呼ぶわ」

すがるような目で、彼女は俺の袖を掴んだ。


「ねぇ、そうなんでしょ?
会いに来て……くれたのよね?」


涙でグシャグシャになった顔で、必死にそう言った彼女の手を、俺はそっと自分の袖から外した。


本当は抱き締めたかった。


キスしたかった。


神様が許してくれるならそれ以上のことだって……


冥土の土産にそうしてもいいなら、彼女の全てを奪いたかった。


だけどこれは兄貴の体なわけで……


それをするってことは、兄貴に彼女を触れさせることになる。


それだけは嫌だった。


他の誰にも彼女に触れてほしくない。


俺がまだこの世にいる間だけは……


だけど言葉だけなら俺の言葉で伝えられる。


そう決心して、俺は彼女に向き直った。


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