あの夏の季節が僕に未来をくれた
「あっ、お兄さん迎えに来てくれたよ?

よかったね?

だいぶ元気になりました

もしまた帰りがけに発作が出たら、これ使ってあげてください」


最初は弟に、最後は俺に向けてそう言うと、彼女は一枚の紙袋を手渡してきた。


それを受け取りながら、俺に笑いかける彼女を可愛い人だなと思う。


たぶんもう20代半ばくらいなんだろうに、擦れたところがなく童顔であることがさらに彼女を若く見せている。


さながらアイドルみたいな顔立ちが、時折少女のような印象を持たせた。


ふと気付くと今まで見たこともない表情で、俺を見ている視線があった。


それは俺のだと言わんばかりの顔で睨み付ける弟が、小さい頃おもちゃを取り上げられた時の情けない顔と重なった。


大丈夫、お前のもんを取ったりしねえよ。


いままでだってそうだったろう?


心の中でそう思いながら、ニヤッと弟に笑いかけた。


きっと相手にされないだろうって、たかをくくっていたのかもしれない。


もし、手に入るのなら俺だって欲しかった。


だからあいつが彼女を手に入れたと知った時は、信じられない思いでいっぱいだった。


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