あの夏の季節が僕に未来をくれた
そして今――


あいつがこの世に留まっていた、もう一つの心残りの存在を……


もうきっと受け入れられると思ったから、俺は俺の知る限りの二人のことを父と母に話したんだ。


二人は静かに俺の話を聞いていた。


真剣な顔で聞き入る父も、どきどき涙ぐみながら耳を傾ける母も、想いは同じだったに違いない。


弟が、恋をして愛することを経験出来たことは、親として喜ばしいことなんだと思う。


だけど、相手の……先生のことを考えたら、そんな悠長なことは言ってられない。


自分の息子のせいで深く傷ついた人間が、自分たち家族だけじゃなかったことに申し訳なささえ感じているんじゃないかと思った。


「……その先生は大丈夫なのか?」


案の定、父が心配そうにそう聞いてきた。


そりゃそうだろう……


俺だって先生のことは心配だった。


見るたび痩せていく彼女をどうにかしてあげたいと思ったこともあった。


だけど……


それは他人がどうにか出来るものでもない。


俺も……父も母もそうだったように。


自分の力で乗り越えるものなんだと思う。


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