あの夏の季節が僕に未来をくれた
だからもう眠らせて欲しい。


もうすぐだってことはわかってるけど、もっと早く神に召されたい。


そんなことを考えていたら、いつの間にか俺は保健室にはいなかった。


どこなのかわからない真っ暗な空間に、ただ浮遊しているだけ。


どのくらい時間が経ったかなんてわからない。


無の空間……


このままずっとここにいるのかななんて頭の隅で考えながら、それでもいいやと思えた。


俺がしたことは許されない行為なわけで。


天国みたいなとこで過ごせるなんてこれっぽっちも思ってなかったから。


俺は自分の魂を成り行きに任せながら、同化するんじゃないかと思うくらい、そこで過ごした。


だんだん記憶も薄らいでいく気がする。


――だれだっけ?


大好きだった人の名前……


顔も声も仕草も匂いも……


全部全部好きだったあの人の名前。


温もりは覚えてるような気がするのに。


顔も名前も……もう思い出せない。


俺を生んでくれた母の顔も……


側で見守ってくれていた父の顔も……


顔にだけモザイクがかかってるような、そんな感覚。


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