あの夏の季節が僕に未来をくれた
帰り際、彼女が俺の顔を覗きこんでから、顔色が良くなったとでも思ったのか、嬉しそうに笑った。


こういう無防備なことをしてくるってことは、俺を男として意識してないってことで……


ドキドキしてんのは、俺だけかよと思うと腹立たしくなる。


近付いた顔にキスでもしてやろうかと思ったけど、泣かせたくもなかったし、困らせたくもなかった。


それにそんなことをしたところで、彼女が手に入るはずもなくて……


逆にもう二度と会ってもらえなくなるような気がして止めた。


こうなったら最後の手段だ。


可愛い生徒を演じて気にかけてもらうしか今は術がない。


「ねえ、センセ?

俺がもし受かんなくてもたまに会ってもらえる?」


そう上目遣いに言ってみると、彼女は驚いたように目を丸くして、諭すように話す。


「大丈夫、きっと受かってるわよ

だから受かったら、保健室に報告に来てね?」


とびきり優しくそう言って微笑んだ彼女の瞳に浮かんだ、少しだけ宿った悲しみの色を俺は見逃さなかった。


きっと俺が受験の心配をしてると勘違いして、受からないかもしれない可能性を押し込めて、励ましてるつもりなんだろう。


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