あの夏の季節が僕に未来をくれた
ひとりぼっちで休み時間を過ごすのも、ひとりぼっちで弁当を広げるのも……


自分で望んでしたんだから寂しくなんかないって。


一人のが気が楽なんだって思えば、それが快適にも思えた。


だけどそれはただの張りぼてで、こうも簡単に剥がれ落ちるものなんだと、たった今知った。


ひさしぶりのクラスメイトから聞く俺の名前。


俺にまた話そうぜなんて言ってくれたことへの喜び。


何がどうなってこんな風になったのかなんてわからないけど、それよりも俺は誰かと友達になりたかったんだと、初めて気づいた。


そしてずっと兄貴としてしか見てもらえなかった俺は、俺個人の名前が雅紀だったことも今更ながらに思い出す。


兄貴……おにいちゃん……兄貴……おにいちゃん……


グルグルと俺の脳裏から離れることのなかったそれは、やっとどこかへ消え去って、俺は自分が雅紀なんだと実感出来た。




「そんなことないよ

ただ、タイミング逃しただけ」


佐伯ともっと仲良くなりたくて、俺はいつもよりも1オクターブ高い声で。


面白いんだなって言ってくれた佐伯のイメージを壊したくなくて。


今までの自分から脱皮したように明るく振る舞った。


< 72 / 248 >

この作品をシェア

pagetop