あの夏の季節が僕に未来をくれた
「そうなんだ?

一人が好きなんだと思ってたよ」


大袈裟に目を大きく開けて、冗談ぽく佐伯は言った。


そんな風に見られてたってことは、俺が作っていた壁は成功していたってことになるけど。


逆に、だからだれも敢えて俺に近づいてこなかったんだと妙に納得してしまった。


「ま、一人は嫌いじゃないけど、一人じゃないのも嫌いじゃないよ」


俺も口の端を上げながら、おどけたようにそう答える。


佐伯はそっか、と嬉しそうに笑うと、また後でなと言って自分の席に戻っていった。


それから佐伯は頻繁に俺に話しかけてくるようになった。


俺も佐伯にはなんとなく自然に話せるようになっていた。


そうなってみて改めて彼をよく見てみると、クラスでもかなりムードメーカー的な存在だった。


佐伯の周りにはいつも誰かしら集まってきて楽しそうに会話している。


その姿が弟と重なって俺は複雑な心境だった。


そしてまた佐伯の友達が俺の友達になりつつある。


けれど弟の時とは違って、俺は佐伯にはそれほど嫉妬心は出てこなかった。


顔も違うし環境も違う。


だからこそ納得できたのかもしれない。


卑屈になることもないと……


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