あの夏の季節が僕に未来をくれた
兄貴は少し戸惑ったように、だけどやっぱり嬉しそうに。


佐伯の言葉に耳を傾けながら、いつものそれとは違ったテンションで接している。


ほんの少しだけその相手が自分じゃないことが悲しかったけど。


兄貴が初めての自分だけの友達を得たことが、俺は嬉しかった。


俺のおかげだなんて言う気はさらさらないけど。


でもきっとそれを知ったらまた、兄貴は前よりも殻に閉じ籠るのかもしれないなんて。


複雑な気持ちにはなったけれど……


それから見違えるほど元気になった兄貴は、相変わらず友達に囲まれている佐伯を見ながら。


それでも俺の時のようにやきもちをやくわけでもなく、楽しそうに過ごしている。


だからそろそろ俺の声が聞こえるんじゃないかって思った。


でも兄貴は俺を受け入れてはくれない。


まるで俺のことはなかったかのように……


自分だけを見てくれる存在が嬉しかったのは、わかるけれど。


学校での兄貴は人が変わったように明るくなり、クラスにも溶け込み始めたけど。


逆に俺の存在を知る中学からの友達とは距離をとるようになっていった。


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