麗しの彼を押し倒すとき。
「って言うかさ、逆に聞くけどその水瀬くんってなに?」
「へ?」
すっとぼけた声を出した私の横で不服そうな顔をした彼、もとい水瀬くんが職員室の扉を開けてくれる。
カラカラと音を立てて開いた扉の先に吸い込まれるように足を踏み出した私は、一歩進んだところでくるりと水瀬くんの方へ振り返った。
「何って……水瀬くんは、水瀬くんじゃん?」
「いや、そうだけどね。ごもっともな答えをありがとう」
「いえ、どういたまして」
「ありがとう」そう言うわりに、彼は全然そう思ってないような表情を見せて来る。
わざと「どういたまして」と、“し”を抜いて返した自分に、やっぱり少し懐かしさを覚えた。
「教室から遠いのに、わざわざごめんね」
「全然。それよりほら、謝られると俺がね」
「あ、そうだった」
彼は申し訳なさうに眉尻をさげて苦笑いを返し、そのまま私の瞳へと視線を合わせた。
見た目はちょっとちゃらんぽらんな感じがするのに、意外とそうでもないらしい。
初めて会ったはずなのにこんなに打ち解けられたのも、水瀬くんのこの人懐っこい笑顔のせいかも知れない。