麗しの彼を押し倒すとき。


通学途中に見かけた光景。

信じたくはないけれど、あれは確かに凪ちゃんだった。


コーヒーを飲む目の前の椿を、ちらりと盗み見る。


この9年間、真っ直ぐ生きてきたつもりだけど、私もそれなりに色んなことがあった。

それはきっと彼らだって同じで、一言じゃ説明つかないこともあるのかもしれない。

……だけど、少なくとも昔の彼らを知ってる身としては、安易な理由で人を傷つけることはないと信じたかった。

私の記憶の中で彼らはまだ、泣き虫な凪ちゃん、照れ屋な椿ちゃん、可愛いなっちゃん、大人っぽい波留ちゃんのままなのだ。


そんな、私の頭の中での葛藤を知らない椿は、目の前でスマフォをいじりながらもう片方の手でスプーンを持ち、カップの中をかき混ぜている。


……本当、何だか知らない人みたい。
9年も経てば変わってしまうこともあるのかなぁ。


やっぱりどこか色気を感じるその姿に、さっきの自信が消えてしまいそうだった。



「あんなこと……聞けない」


私は誰にも気づかれないような小さな声と一緒に、ため息をついた。

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