麗しの彼を押し倒すとき。


桃子先生が部屋にかけていた時計へと目をやって、何気なく私もつられて同じ方を見た。


……1時30分。


ぼんやりと時計を目に入れながらメロンパンの袋を開けると、甘い匂いが広がる。

その匂いにつられて一口頬張ると、今日一番と言っていいほどの幸せに包まれた。



「おいしい〜っ」


二口、三口と食べ続ける私の横に、コーヒーの入ったマグカップがそっと置かれ、なんとも言えない気持ちになる。

顔を上げると桃子先生がぷるぷるした唇に弧を描いていて、色気とかそんなものよりも、人間的に魅力のある人だなと思った。



そのまま空腹のままにメロンパンを半分食べ進めたところで……はたと手を止めた。


何か違和感を感じ顔を上げると、もう一度時計へと視線を合わせる。


……1時35分。


さっきよりも5分だけ進んだ長針に、秒針が一瞬だけ重なり過ぎ去って行く。

昼休みに入る直前、最後に時計を見たとき針は11時45分を指していた。



「……桃子先生、昼休みって何時まででしたっけ?」


静かな焦りにはっきりとしない思考回路のまま、口だけが言葉を紡ぎ問いかける。



「11時50分から12時40分の50分間だけど……」


そう答えが返ってきたところで、もう昼休みが終わってからどれだけ過ぎているのかが計算できない。

ただ、休み時間はとうの昔に終わり、昼からの授業が始まっているということだけは理解できる。



「……桃子先生、なんで教えてくれなかったんですか」

「だって柚季ちゃん一条くんと真剣に話してたから……それにチャイムだって何度も鳴ってたわよ?」


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