雪解けの水に潜む、紅



考えるより先に、ドレスの先をビリビリに破いた。
太ももが思いっきり見えるスタイルになってしまったけれど、今は気にしていられない。

あのまま着続けていれば、私の体はマグマの呪いによって焼き焦げてしまっただろう。
突然ガクン、と膝が抜けた。
どうやら体の中に残っていた、最後の魔力を使い切ってしまったらしい。
魔力の補充をろくにさせてもらえない私は、もう魔法は使えそうになかった。
定期的に魔力回復の薬を飲まなくちゃいけないのに十三年間で与えられるのは、たったの二、三粒だ。
ちなみに毎日魔法を使い続けたいなら、一週間に一粒から二粒は飲まなければいけない。
体力も気力も限界に等しかった。
命がけで守った卵を割らないように気をつけながら、私は抱き枕代わりにして眠りについた。
目を覚ましたのは、私の頬をザラっとした濡れた何かが触れたからだ。

いや舐め上げたというほうが正しい表現だったかもしれない。
鈍い光の中、ディモンドに良く似た身長一メートルほどの黒竜がビーズのような瞳で私を見ていたからだ。

人形のような愛苦しさに思わず抱きしめようとしたが、チラチラと口の隙間から覗く鋭い牙を見て腕を引っ込めた。

ディモンドほど大きくはないけれど、恐らく牙の毒は彼のものと同様だろう。




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