雪解けの水に潜む、紅



声の少女は夢見ていた。いつか、王子さまが自分の手をとって結婚を申し出てくれることを。
だけど、それは叶わなかった。
城の中に入ると時が変わったように感じた。
先ほどの幼かった2人は消え、美しい王女さまと王子さまがいた。
結婚式だろうか。奥のほうから他国の美しい王女さまが降りてきていた。
彼女は王子さまの腕に手を通し、幸せそうに笑っている。
やがて2人の間には子どもが生まれたのだろう。声の主はどのような思いでそれを見ていたのだろう。
記憶は消えた。
寂れた古城の中、私は虚しさのような偽物の感情に襲われていた。
あの女が憎い、憎い。そう頭の中で誰かが洗脳しているように思えた。
だけど、私は別に憎くない。
私が思っていた以上に、私の心は強くなっていた。
平和の為に。家族の為に。



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